株式投資の研究者として著名なペンシルバニア大学のジェレミー・シーゲル教授。
ジェレミー・シーゲル教授の著書『株式投資の未来 永続する会社が本当の利益をもたらす』は”長期投資のバイブル”とも呼ばれています。
本書は100年以上にわたる米国株式市場のデータを用いた精緻な分析がなされていて、そこから重要な事実を学ぶことができたり、理論的な体系に基づいて投資銘柄を選ぶ際の重要な視点を学ぶことができます。
本記事では、中でも個人的に重要だと感じた”長期投資における配当の重要な役割”について紹介したいと思います。
私のような20代で長期投資を目指す者にとっては、非常に参考になると思います。
・『株式投資の未来』を読もうと思っている
・長期投資に取り組んでいる
・配当金が果たす役割について知りたい
配当こそが投資家のリターンを押し上げる
長期投資家にとって絶対に知っておいてほしい重要なことがあります。
それは、配当こそがこれまで投資家のリターンを押し上げてきた最大の要因であるということです。
本書ではS&P500指数の当初構成銘柄を対象に、配当を再投資した場合のリターンが記録されています。
そこで浮かび上がった重要な事実が、長期的に高い運用成績を達成した銘柄はたいていの場合、配当を再投資したことがその最大の理由になっているということです。
配当は長期投資における投資家のリターンに対して大いに物を言い、配当を再投資することは非常に重要であると言います。
実際に本書で行われた調査において、配当利回りが高い銘柄を選んでポートフォリオを組んだところ、そのリターンは市場平均を年率3ポイント上回っています。
逆に配当利回りが低い銘柄を選んだポートフォリオのリターンは、市場平均を年率約2ポイント下回っています。
また、市場全体に投資をした場合においても長期投資における配当の再投資の威力は驚異的となっています。
本書の初版が2005年11月28日なので調査期間は1957年から2003年までの46年間となっていますが、この46年間においてS&P500のインデックスファンドを1000ドル買い、配当を全て再投資にまわしたとしたら2003年にはいくらになったと思いますか?
この期間において配当を再投資し続けると当初の1000ドルは約13万768ドルになっています。(年率のリターンは11.19%)
同様の期間において、配当利回り上位20%だけを年末ごとに買った場合だと2003年末の累積リターンは46万2750ドルとなっています。(年率14.27%)
逆に配当利回りが最低のグループ(下位20%)だけを買った場合、2003年末の累積リターンは6万4930ドルとなっています。(年率9.50%)
1957年~2003年におけるS&P500、S&P500指数の配当利回り上位20%、下位20%の累積リターン、年率リターン、リスクの関係は以下のとおりです。(投資元本は1,000ドル)
累積リターン | 年率リターン | リスク | |
配当利回り上位20% | 462,750ドル | 14.27% | 19.29% |
S&P500指数 | 130,768ドル | 11.18% | 17.02% |
配当利回り下位20% | 64,930ドル | 9.50% | 23.78% |
冷静に考えるとS&P500指数の配当利回り下位20%の銘柄群でも年率リターン9.50%と十分高いですが、配当は歴史を通じて、株主リターンの圧倒的な源泉となっていることが伺えます。
シーゲル教授も配当利回りが高い企業ほど、投資家にもたらすリターンも高いと述べています。

相場下落時に果たす配当の2つの役割
長期投資において配当が投資家にリターンを大きくもたらすということをこれまで述べてきました。
また本書では、配当利回り(1株当たり配当金÷株価)が高い企業ほど投資家にもたらすリターンも高くなると述べています。
配当利回りが高い株式を一般的には高配当株と呼びますが、この高配当株は市場サイクルのどの局面でも好成績を残しています。
長期投資においては相場の好不況はつきものですが、高配当株が市場サイクルのどの局面においても好成績を残すなんて一体どういう仕組みになっているのでしょうか?
相場下落時における配当が果たす2つの役割について紹介していきます。
①下落相場の安全装置(プロテクター)
まず、1つ目の役割が「下落相場の安全装置(プロテクター)」です。
相場下落時においては、配当の再投資を通じて保有株をを余分に積み増すことができるので、これがポートフォリオの価値下落を受け止めるということです。
相場下落時に配当を再投資することができれば、通常よりも安く(つまり、たくさん)株を仕入れることができます。
相場下落時は悲観的な投資家による狼狽売りも多くなりますが、本書のように長期投資において配当金を再投資するスタイルを貫くと相場の下落時にも配当金の再投資を通じて株数を増やすことができます。
配当金の再投資によって株数を積みますことで、ポートフォリオ全体の資産額も積み増しされる訳なのである程度の価値の下落を受け止めることにもなります。
②リターンの加速装置(アクセル)
2つ目の役割が「リターンの加速装置(アクセル)」です。
相場下落時に買い増した株式は相場がいったん回復すれば、保有株数が以前より増加しているので、将来のリターンが加速していきます。
これを本書では、リターンの加速装置(アクセル)と読んでいます。
相場下落時において、配当は「プロテクター」と「アクセル」の2つの役割を果たすからこそ、長期投資において投資家により多くのリターンを生み出してくれるという訳です。
高配当株は市場サイクルのどの局面でも好成績を残していると先述しましたが、このからくりこそが本項で紹介した2つの役割によります。
本書では、配当利回りと株価下落率の関係を示した「株価下落から回復までの年数」という表も掲載されていました。

この表が示すとおり、配当利回りが高いほど、損失を回復するまでの期間は短くなっていることが伺えます。
配当利回りが2%の株式が相場の下落によって株価が20%下落したとすると、その株が損失回復するまでの年数は45.6年かかるという見方になります。
配当利回りが5%の株式が50%も株価が下落した場合は14.9年で回復しています。
このように配当利回りが高いほど損失を回復するまでの期間が短くなっており、株価の下落幅は大きいほど損失回復までの期間が短くなっていることが分かります。
これは先ほど述べた相場下落時の2つの役割が効いており、株価の下落が激しいときほど配当再投資による保有株の積み増しのペースが加速しているからです。
まとめ
以上、株式投資のバイブル『株式投資の未来』より配当が果たす重要な役割について紹介させていただきました。
投資戦略も様々ありますが、本書を読むと長期投資の戦略の1つとして高配当株投資も有効だと感じました。
あくまで本記事では長期投資における配当の重要性についてフォーカスさせていただきましたが、他にも本書では成長株や株主価値の源泉、世界経済、ポートフォリオまで幅広く展開されています。
長期投資を考えている方は読んでおいて損はしない1冊ですので、ぜひ興味を持たれた方は本書をご覧いただければと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。